平成23年度税制改正大綱

民主党による平成23年度税制改正大綱が、昨日公表された。税制改正大綱は弊社の業務に重大な影響を及ぼすことから、毎年強い関心を持って待ち構えている。

今年で政権交代後2度目の税制大綱であるが、弊社業務に比較的影響の大きい改正内容が多い。今夏の参議院選で民主党が大敗、衆参ねじれ現象が生じており、かつ、財源問題や各種利害対立が大きい。そのため、3月末の法律制定までその内容が大きく変更になる可能性もあるので特に注視していきたい。

今回の改正項目のうち、筆者が俯瞰して特に気になったものは以下の通りである。
高所得者や資産家に対する増税が顕著であり、国家の活力そのものが削がれることが懸念される。自民党政権時代とは大きく傾向が変わってきており、政策色は弱まり、理論的には望ましい内容への改正項目が多いのが特徴ではなかろうか。

(1)納税者権利憲章を策定し、国税通則法の大幅な見直しを行う。

(2)税務調査手続の事前通知の実施
(注)上記の改正は、平成24 年1月1日以後に新たに納税者に対して開始する調査及び当該調査に係る反面調査について適用される。

(3)更正の請求期間の延長
① 納税者が「更正の請求」を行うことができる期間(現行1年)を5年に延長する。
② 併せて、課税庁が増額更正できる期間(現行3年のもの)を5年に延長する。
③ 当該申告時に選択した場合に限り適用が可能な「当初申告要件」がある措置について、一定の範囲で、更正の請求範囲を拡大する。

(4)全ての課税処分について、原則として平成24 年1月より理由附記を実施する。
ただし、個人の白色申告者に対する更正等に係る理由附記については、一定の記帳・帳簿等保存義務の拡大と併せて実施する。

(5)事前照会に対する文書回答制度について所定の見直しを行う。

(6)還付加算金の計算期間の見直しを行う。

(7)給与所得控除の見直し
その年中の給与等の収入金額が1,500 万円を超える場合の給与所得控除額については、245 万円の上限を設ける。
役員給与等に係る給与所得控除については、給与収入が2,000万円超えると、控除額が245万円から徐々に縮小する。
給与収入に応じて減らす仕組みで、
① 2,000万円超2,500万円以下の場合は、245万円から2,000万円を超える部分の金額の12%相当額を控除した金額
② 2,500万円超3,500万円以下の場合は185万円
③ 3,500万円超4,000万円以下の場合は、185万円から3,500万円を超える部分の金額の12%相当額を控除した金額
④ 4,000万円超の場合は125万円とする。
この場合の役員等とは法人税法上の役員だけでなく、国会議員及び地方議員一定の国家公務員や地方公務員が含まれる。
(注)上記の改正は、平成24 年分以後の所得税及び平成25 年度分以後の個人住民税について適用される。

(8)役員退職所得課税の見直し
その年中の退職手当等のうち、退職手当等の支払者の役員等(役員等としての勤続年数が5年以下の者に限ります。)が当該退職手当等の支払者から役員等の勤続年数に対応するものとして支払を受けるものに係る退職所得の課税方法について、退職所得控除額を控除した残額の2分の1とする措置を廃止する。また、退職所得に係る個人住民税の10%税額控除を廃止する。
(注)上記の改正は、平成24 年分以後の所得税について適用される。個人住民税は、平成24 年1 月1 日以後に支払われるべき退職手当等について適用される。

(9)成年扶養控除の見直し
23歳~69歳の扶養親族に係る成年扶養控除については、障害者等や65歳以上の高齢者、学生、合計所得金額400万円以下の扶養者を引き続き扶養控除の対象とするが、それ以外の場合については扶養親族1人につき38万円の成年扶養控除を廃止する。
(注)上記の改正は、これらの見直しも平成24年分以後の所得税について適用される。

(10) 年金所得者の申告手続きの簡素化
公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ年金以外の他の所得金額が20万円以下の者について申告不要制度を創設する。
(注)上記の改正は、平成23年分以後の所得税について適用される。

(11)金融証券税制
上場株式等の配当・譲渡所得等に係る軽減税率(所得税7%,住民税3%)を25年12月31日まで2年間延長し、26年1月から本則の20%(所得税15%,住民税5%)とする。
少額上場株式等に係る配当等の非課税措置については、施行日を2年延ばし、26年1月1日から適用となる。

(12)相続税の課税ベース及び税率構造の見直し
基礎控除額は、現行の5,000万円+法定相続人数×1,000万円が、3,000万円+法定相続人数×600万円となる。また、最高税率を50%から55%に引き上げ、税率構造は6段階から8段階とされる。5,000万円超1億円以下(30%)までの税率は変わらないが、改正後は2億円以下の金額40%、3億円以下45%、6億円以下50%、6億円超55%というように、最高税率の引上げと高課税価格帯のブラケット幅の縮小によって、遺産額の大きい場合を中心に資産再配分の機能回復が図られる。
死亡保険金の非課税限度額は、500万円に乗じる法定相続人の数が「未成年者、障害者又は相続開始直前に被相続人と生計を一にしていた法定相続人」の数とされ、未成年者控除と障害者控除は6万円が10万円に引き上げられる。
(注)上記の改正は、平成23 年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される。

(13)贈与税率構造等の見直し
贈与税の最高税率も50%から55%に引き上げられるが、生前贈与による子や孫への財産移転を促進するため、20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の税率が緩和される。
1,000万円以下の金額に対する税率40%が30%に、1,000万円超の金額50%は、1,500万円以下40%、3,000万円以下45%、4,500万円以下50%、4,500万円超55%というように一般の贈与税率と区別される。
相続時精算課税についても、現行では推定相続人のみとされている受贈者の範囲に20歳以上の孫が加えられ、贈与者の年齢要件も65歳以上から60歳以上に拡大される。
平成22年度改正で拡充された住宅取得資金の贈与に係る措置法特例については、住宅の新築に先行して敷地用の土地を取得する場合の資金が追加される。
(注)上記の改正は、23年1月1日以後の贈与税から適用される。

(14)事業承継税制の見直し
非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度では、特別子会社や同族関係者に係る適用要件の見直しが行われる。
風俗営業会社等に該当してはならないとされる特別関係会社は、特別関係会社のうち、認定会社、認定会社の代表権を有する者、その者と生計を一にする親族、その者と特別の関係のある者によって株式を保有される会社とされる。資産保有・運用型会社の判定の基礎となる特定資産の範囲に、一定の外国会社に対する貸付金等が追加される。
なお、相続税関連では連帯納付義務についての見直しも行われ、連帯納付義務者が義務を履行する場合に負担する延滞税について、一定の要件のもと延滞税に代えて利子税(最高4.3%)を納付することとされ、23年4月1日以後の期間に対応する延滞税から適用される。
資産課税関係では、住宅の所有権の保存登記等の登録免許税の特例や不動産の譲渡契約書の印紙税の特例措置の適用期限が2年延長される。

(15)法人税率の引下げ
法人税の税率を次のとおり引き下げ、法人の平成23 年4月1日以後に開始する事業年度について適用する。住民税と併せ、約5%の引き下げとなる。
a
(注)
①改正前の中小法人における年800万円以下の( )書きは、平成21年4月1日~平成23年3月31日までの間に終了する事業年度に適用される。
②改正後の中小法人における年800万円以下の( )書きは、平成23年4月1日~平成26年3月31日までの間に終了する事業年度に適用される。

(16)減価償却制度の見直し
減価償却制度については、平成23年4月1日以後に取得する減価償却資産の定率法の償却率(定額法の償却率の2.5倍)を、定額法の償却率の2.0倍に縮小する。なお、改定償却率及び保証率についても所要の整備を行う。(所得税についても同様)
(注1)定率法を採用している法人が、平成23 年4月1日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度において、同日からその事業年度終了の日までの期間内に減価償却資産の取得をした場合には、現行の償却率による定率法により償却することができる経過措置を講じる。なお、その減価償却資産を適格組織再編成により移転を受けた法人も同様とする。
(注2)現行の償却率による定率法を採用している減価償却資産について、平成23 年4月1日以後最初に終了する事業年度の申告期限までに届出をすることにより、その償却率を改正後の償却率に変更した場合においても当初の耐用年数で償却を終了することができる
経過措置を講じる。

(17)欠損金の繰越控除制度等の見直し
欠損金の繰越控除制度については、中小法人等の場合を除き、控除限度額をその事業年度の繰越控除前の所得金額の80%に制限し、欠損金の繰越期間を現行の7年から9年に延長する。
(注1)上記の改正は、平成23 年4月1日以後に開始する事業年度について適用される。

(18)貸倒引当金制度
貸倒引当金制度について、適用法人を銀行、保険会社その他これらに類する法人及び中小法人等に限定する。なお、これらの法人以外の法人の平成23年度から平成25年度までの間に開始する各事業年度については、現行法による損金算入限度額に対して、平成23 年度は4分の3、平成24 年度は4分の2、平成25 年度は4分の1の引当てを認める等の経過措置を講じる。

(19)寄附金の損金不算入制度
一般の寄附金の損金算入制度について、損金算入限度額を現行の2分の1の水準に引き下げる。

(20)グループ法人税制
① 100%グループ内の他の内国法人が清算中である場合、解散が見込まれる場合又はそのグループ内で適格合併により解散することが見込まれる場合には、その株式について評価損を計上しないこととする。
② 解散の場合の期限切れ欠損金の損金算入制度においてマイナスの資本金等の額を期限切れ欠損金と同様とするほか、連結納税制度における期限切れ欠損金の損金算入制度について所要の整備を行う。
③ 適格合併等の場合の欠損金の制限措置等について、適用対象から被現物分配法人の自己株式の適格現物分配を除外する。
④ 100%グループ内の複数の資本金5億円以上の法人に発行済株式の全部を保有されている法人に、中小企業の特例は適用しない。
(a) 軽減税率
(b) 特定同族会社の特別税率の不適用
(c) 貸倒引当金の法定繰入率
(d) 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
(e) 欠損金の繰戻しによる還付制度
(f) 欠損金の繰越控除
(g) 貸倒引当金の法定繰入率

(21)棚卸資産の評価について、切放し低価法を廃止する。

(22)法人税の中間納付制度について、仮決算による中間税額が前事業年度の確定法人税額の12分の6を超える場合には、仮決算による中間申告書を提出できないこととする。

(23)雇用促進税制の創設
公共の職業安定所に雇用促進計画の届出を行った法人が、平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度において、前事業年度に比して、10%以上かつ5人以上(中小企業者等は2人以上)雇用保険一般被保険者の数が増加した場合、一定の要件の下、法人税額の10%(中小企業者等は20%)を限度に、増加した雇用保険一般保険者数に20万円を乗じた金額を税額控除できる。

(24)廃止される主な時限立法
① 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除の特例は適用期限の到来をもって廃止。
② エネルギー需給構造改革推進投資促進税制を廃止。
③ 中小企業等基盤強化税制は適用期限の到来をもって廃止。

(25)移転価格税制
① 平成23年10月1日以後に開始する事業年度の法人税について、移転価格税制に用いられる独立企業間価格の算定方法の適用優先順位を廃止し、独立企業間価格を算定するために最適な方法を事案に応じて選択する仕組みに改正し、また、比較利益分割法、寄与度利益分割法、残余利益分割法を明確にする。
② 国外関連取引の価格等が、独立企業間価格幅いわゆるレンジの中にある場合には、移転価格課税を行わないことを運用において明確にする。
③ シークレットコンパラブルが適用される場合の具体例を運用において一層明確にする。

(26)外国税額控除制度
外国税額控除の対象から除外される高率な外国租税の水準を現行の50%超から35%超に引下げ、控除限度額の計算の基礎となる国外所得から除外される非課税国外所得を現行の3分の2から全額とする。また、全世界所得の90%までに制限されている国外所得について、現行採用されている90%超の場合の特例については廃止とする。

(27)中小企業税制
① 中小法人の軽減税率について、特例による税率を15%(現行18%)に引き下げた上、平成23 年4月1日から平成26 年3月31 日までの間に開始する事業年度について適用するとともに、本則税率を19%(現行22%)に引き下げる。(再掲)
(注)平成23 年4月1日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度については、経過措置として現行の租税特別措置法による税率を適用する。
② 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度及び連結欠損金の繰越控除制度における控除限度額について、中小法人等については、現行の控除限度額を存置する。(再掲)
③ 中小法人等については、貸倒引当金制度を存置する。(再掲)
④ 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人に係る次の制度については、100%グループ内の複数の大法人に発行済株式の全部を保有されている法人には適用しないこととします。(再掲)
イ 軽減税率
ロ 特定同族会社の特別税率の不適用
ハ 貸倒引当金の法定繰入率
ニ 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
ホ 欠損金の繰戻しによる還付制度
ヘ 欠損金の繰越控除
ト 貸倒引当金の法定繰入率

(注)大法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上の法人又は相互会社等をいう。

(28)消費税の免税点制度
① 消費税の事業者免税点制度における免税事業者の要件について、次の見直しを行う。
イ 個人事業者のその年又は法人のその事業年度につき現行制度において事業者免税点制度の適用を受ける事業者のうち、次に掲げる課税売上高が1千万円を超える事業者については、事業者免税点制度を適用しないこととする。
(イ 個人事業者のその年の前年1月1日から6月30 日までの間の課税売上高
(ロ 法人のその事業年度の前事業年度(7月以下のものを除く。)開始の日から6月間の課税売上高
(ハ 法人のその事業年度の前事業年度が7月以下の場合で、その事業年度の前1年内に開始した前々事業年度があるときは、当該前々事業年度の開始の日から6月間の課税売上高(当該前々事業年度が5月以下の場合には、当該前々事業年度の課税売上高)
ロ イの適用に当たっては、事業者は、イの課税売上高の金額に代えて所得税法に規定する給与等の支払額の金額を用いることができることとする。
ハ イに該当することとなった場合にはその旨の届出書を提出することとする等の所要の措置を講じる。
(注)上記の改正は、上記のその年又はその事業年度が平成24 年10 月1日以後に開始するものについて適用される。
② 課税売上割合が95%以上の場合に課税仕入れ等の税額の全額を仕入税額控除できる消費税の制度については、その課税期間の課税売上高が5億円(その課税期間が1年に満たない場合には年換算)以下の事業者に限り適用することとする。
(注)上記の改正は、平成24 年4月1日以後に開始する課税期間から適用される。

この記事は 2010年 12 月 17日(金曜日) に投稿されました。
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