~変革の時~
金融機関の事例研究会開催
本日18時より、某金融機関と事例研究会を実施した。
この勉強会は、福岡エリアの中堅行員を中心に相談事例を交えて月1回のペースで行っている。実際の相談事例や提案事例を基に金融機関や会計専門家として、これからどのように関与していくべきかについて、活発な議論が展開された。
今回も前回に引き続き、「事業承継事例」をテーマに協議を行った。
今回は、景気低迷の影響を受け、ここ数年減収減益が続き、遂に前期において最終赤字に陥った中小企業の事例であった。70代半の社長率いる同社は、複数店舗による小売業を営んでおり、事業承継を前提として30代後半のご子息が後継者候補として勤務している。リーマンショック以降の激しい価格競争の影響を受け、今後業績が回復する見込みは低く、中長期的には会社の変革なくして事業継続は難しいものと思われる。含み益のある不動産を保有しているものの、事業規模と比較して在庫金額が非常に大きく、かつ有利子負債による債務過多となっている。赤字補填と思われる巨額の代表者借入金もあり、事業承継対策と併せて相続対策が必要である。また、同業他社と比較して全従業員に占めるパート比率が低く財務体質を悪化させている原因となっている。おそらく、店舗別損益、商品別損益、在庫回転率や交差比率などの計数管理を前提とした経営管理が徹底されていないため、現在のような状況に陥ったものと推測される。
現実的には、中小企業においては当該事例のようなケースが非常に多い。これまでは成り行き経営で存続できていた会社が未曾有の経済危機の影響により、ビジネスモデルが成立しづらくなっており、何ら有効な手を打たずに放置したまま、事業承継の時期を迎えている。家業として当然のように親族内で承継されていくが、経営能力や信用力の劣る後継者が更に業績や財政状態を悪化させていく可能性が高い。
今回の事例では、事業承継よりも先に、まず会社の経営改革を断行すべきであろう。現状のまま何も手を打たなければ、中長期的には事業継続が困難であると言わざるを得ない。具体的には、在庫圧縮、不採算店舗・不採算部門の撤退や効率化を前提とし業務削減をおこなった後、パート比率の見直し、人員削減等のリストラを断行すべきである。その財源や損益手当としては、不要資産の売却、代表者借入金の放棄やDESを検討すべきである。ただし、債務免除やDESを実施する場合には、株主間贈与や法人側の課税リスクが高いので、実施する場合には事前に税理士等の専門家に相談すべきであろう。平成18年度税制改正によって、それまで債務者側では、現物出資財産が不良債権でも、資本等取引に該当するものとしてその債権の券面額だけ資本等の額を増加させることができ、債務超過会社の財務改善手法として非常に有効であったが、会社法制定に伴う法人税法改正で、DESにより債務を現物出資で受け入れて新株を発行する場合においても債務の「時価」で資本等の金額を認識することになり、その差額は、債務消滅益として繰越欠損金等が不足する場合には法人税等が課税されることになったため、かなり税務リスクが高くなったと言える。
現経営者は、長期的・体系的な後継者教育と併せて、経営改革を断行する覚悟で、円滑な事業承継と確実な会社継続を見守っていくことが最後の重大な責務であるのは間違いない。