適格現物分配
商工会議所NEWSの平成23年9月号税務Q&Aに「適格現物分配」が掲載されましたのでご紹介します。
Q 税制改正で現物分配の取扱いが変更されたそうですが、その内容を教えてください。
A 平成22年度税制改正により、株主等に対する一定の現物分配について適格現物分配と位置づけ、組織再編税制の対象とされました。これにより適格現物分配により資産の移転を行った法人は、その資産を移転直前の帳簿価額で譲渡したものとして、実質的に当該資産の譲渡損益の計上を行わないこととされ、一方、資産の分配を受けた法人は、その分配を行った法人の移転直前の当該資産の帳簿価額相当額により当該資産を取得したものとし、その受けたことにより生ずる収益の額は益金不算入とされました。また、適格現物分配は所得税の配当所得に該当しないとされたため、源泉所得税の徴収も不要となりました。
なお、非適格現物分配については、従来どおり時価で譲渡したものとして譲渡損益を計上し、配当相当額については源泉徴収が必要となりますので注意が必要です。
※ 当該改正は、平成22年10月1日以後に行う現物分配に適用されます。
(1) 用語の定義等
① 現物分配とは、法人がその株主等に対し剰余金の配当、資本の払戻し又は解散による残余財産の分配、自己株式の取得等(市場における購入による取得等を除く)、出資の消却及び組織変更といったみなし配当事由などにより金銭以外の資産を交付することをいいます。
② 適格現物分配とは、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が、その現物分配の直前において、その内国法人である現物分配法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人又は協同組合等に限る)のみであるものをいいます。従って、現物分配を受ける者の中に、個人や外国法人がいる場合には、内国法人に対するものも含めて非適格現物分配となりますので注意が必要です。また、残余財産の分配などの場合において、金銭と金銭以外の資産の両方が分配されるときには、それぞれ別々の取引として捉えるものと考えられます。
(2) 親会社株式の現物分配
完全子法人が合併等により取得した親会社株式の現物分配を行った場合においても、交付する資産については金銭以外の資産であれば特に制限がないことから、適格現物分配に該当することになります。従って、その資産を移転直前の帳簿価額で譲渡したものとして、当該株式の譲渡損益の計上を行わないこととし、その直前の帳簿価額を基準により配当の計算を行うことになります。
(3) 清算中の法人との関係
清算中の完全子法人から金銭以外の残余財産の分配を受けた場合も、適格現物分配に該当することになります。従って、その資産を移転直前の帳簿価額で譲渡したものとして、当該資産の譲渡損益の計上を行わないこととし、その直前の帳簿価額を基準に配当の計算を行うことになります。
また、完全支配関係にある親子会社間において子会社の解散により残余財産が確定したときは、一定の場合を除き、親会社はその子会社の未処理欠損金額を引き継ぐことが可能になりました。その一方で、完全支配関係にある親子会社間において、その子会社を解散した場合には、親会社において解散した子会社の株式消滅損が計上できなくなりましたので注意が必要です
(4) 繰越欠損金の利用制限
適格現物分配が行われた場合には、一定の場合を除き、その法人の適格現物分配の日の属する事業年度開始の日の7年以内に開始した各事業年度に生じた欠損金の一部又は全部を切り捨てられる措置が設けられましたので要注意です。
被現物分配法人において利用制限の対象となる欠損金には次のようなものがあります。
① 支配関係事業年度前の繰越欠損金
② 支配関係事業年度以後の特定資産譲渡等損失相当額
なお、支配関係が当該適格現物分配の日の属する事業年度開始の日の5年前の日までに生じている場合や現物分配法人の設立日から継続している場合には、被現物分配法人において欠損金の利用制限はありません。
〔図表〕
① 完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係(当事者間の完全支配関係)や当事者間の完全支配関係がある法人相互の関係などいいます。
② 支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有する関係(当事者間の支配関係)や当事者間の支配関係がある法人相互の関係などいいます。
③ この株主の範囲には同族関係者、具体的には子会社(100%又は50%超)や6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族などが含まれます。なお、これらの判定において、自己株式などを除くほか、完全支配関係の判定では従業員持株会などの所有割合が5%未満である株式を除外するという規定が設けられています。