中小企業の事業承継対策 第6回
DES(金銭債権の現物出資)の活用
事業承継が必要性なのは何も優良な会社ばかりではない。経営者が高齢となり、事業譲渡または清算してリタイヤしたいと思っているが、多額の借入金とその連帯保証及び多くの従業員を抱え、辞めれないでいる経営者が圧倒的に多いのが現実だ。会社は創るよりもやめる方が何倍も大変だと言われる所以である。
このようなケースでよく用いられるのが、代表者借入金を資本金に組み入れるデット・エクイティ・スワップ(DES)である。DESとは、銀行や代表者からの借入金等を資本金に組み入れることをいう。
DESにより、会社の財務体質の改善や各種利害調整を行って、事業承継を行うのである。このようなケースでは、経営者は自己の利益よりも従業員の雇用や取引先との関係などを優先する場合が多く、実質的に代表借入金の全部又は一部を放棄する形で事業継続を支援しようとするのである。
DESのメリットには、借入金の資本組入れ、つまり債務の株式化による財務体質強化がある。利息や返済負担の軽減のほか、債務超過の解消や自己資本比率など経営指標の向上により銀行の格付アップが期待できる。
DESのデメリットには、資本金等が増加することによる税負担増がある。特に、資本金や資本等の金額(資本金+資本積立金)が1億円を超える場合には、税負担が大幅に増えるので要注意である。また、株主構成によっては、株主に対して贈与課税の可能性があり、税務リスクの検討はしっかり行いたいところだ。
債権者側の処理において、非適格現物出資に該当するときは、その取得する株式の取得価額は時価となる。子会社等に対して債権を有する法人が合理的な再建計画等に基づいて行ったDESを除き、現物出資した債権と取得した株式の時価との差額が生じたときは、法人であれば寄付金として、個人であれば雑所得の損失として認識される。
平成18年度税制改正によって、それまで債務者側では、現物出資財産が不良債権でも、資本等取引に該当するものとしてその債権の券面額だけ資本等の額を増加させることができ、債務超過会社の財務改善手法として非常に有効であった。
しかし、会社法制定に伴う法人税法改正で、DESにより債務を現物出資で受け入れて新株を発行する場合においても債務の「時価」で資本等の金額を認識することになり、その差額は、債務消滅益として繰越欠損金等が不足する場合には法人税等が課税されることになったため、かなり税務リスクが高くなったといえよう。