~変革の時~
平成22年度税制改正大綱
民主党による平成22年度税制改正大綱が、昨日公表された。例年より一週間程遅い発表となった。同党がマニフェストで謳った揮発油税等の暫定税率廃止や、子ども手当と扶養控除の見直し問題などで、各種利害調整に時間を要したのであろう。税制改正大綱は弊社の業務に重大な影響を及ぼすことから、毎年強い関心を持って待ち構えている。
今年は、政権交代したことで税制大綱の内容も様変わりした。民主党政権にとって初めての大綱策定ということで、各関係者との調整が不十分であるのは否めない。また、財源問題や各種利害対立が大きいことから、3月末の法律制定までその内容が大きく変更になる可能性もあるので特に注視していきたい。
今回の改正項目のうち、筆者が俯瞰して気になったものは下記の通りである。特に、(5)グループ内取引等に係る税制及び(6)資本に関係する取引等に係る税制は、弊社における主要業務と密接な関係があるので、今後出される法案の動向を見守りたい。
(1) 扶養控除の見直し
イ 年少扶養親族(扶養親族のうち、年齢16歳未満の者をいう。)に係る扶養控除を廃止する。
ロ 特定扶養親族(扶養親族のうち、年齢16歳以上23歳未満の者をいう。)のうち、年齢16歳以上19歳未満の者に係る扶養控除の上乗せ部分(25万円)を廃止し、扶養控除の額を38万円とする。
(注)上記の改正は、平成23年分以後の所得税について適用する。
(2) 同居特別障害者加算の特例の改組
扶養親族又は控除対象配偶者が同居の特別障害者である場合において、扶養控除又は配偶者控除の額に35万円を加算する措置(同居特別障害者加算の特例措置)について、年少扶養親族に係る扶養控除の廃止に伴い、特別障害者控除の額に35万円を加算する措置に改める。
(注)上記の改正は、平成23年分以後の所得税について適用する。
(3) 非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置の創設
金融所得課税の一体化の取組の中で個人の株式市場への参加を促進する観点から、平成24年から実施される上場株式等に係る税率の20%本則税率化にあわせて、次の非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置を導入する。
(4) 上場会社等の自己の株式の公開買付けの場合のみなし配当課税の特例について、平成22年12月31日まで適用する措置を講じた上、廃止する。なお、本特例の廃止に伴い、上場株式等の配当等に係る源泉徴収義務等の特例等について次の措置を講じる。
イ 自己の株式の公開買付けの場合のみなし配当に係る大口株主の判定の基準日を、その公開買付けの終了の日とする。
ロ みなし配当のうち上場株式等の配当等に該当するものの支払をする内国法人は、その配当等の支払事務取扱者である金融商品取引業者等に対し、そのみなし配当等の発生の基因となった事由、みなし配当の額等を通知しなければならないこととする。
(5) グループ内取引等に係る税制
イ 100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等
(イ) 連結法人間取引の損益の調整制度を改組し、100%グループ内の内国法人間で一定の資産の移転(非適格合併による移転を含む。)を行ったことにより生ずる譲渡損益を、その資産のそのグループ外への移転等の時に、その移転を行った法人において計上する制度とする。これに伴い、適格事後設立制度を廃止する。
(注)100%グループ内の法人とは、完全支配関係(原則として、発行済株式の全部を直接又は間接に保有する関係)のある法人をいう。
(ロ) 100%グループ内の法人間の非適格株式交換等を、非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の時価評価制度の対象から除外する。
(注)合併等の対価として一定の外国親法人株式が交付されるものを除く。
ロ 100%グループ内の法人間の寄附
100%グループ内の内国法人間の寄附金について、支出法人において全額損金不算入とするとともに、受領法人において全額益金不算入とする。
ハ 100%グループ内の法人間の資本関連取引
(イ) 100%グループ内の内国法人間の現物配当(みなし配当を含む。)について、組織再編税制の一環として位置づけ、譲渡損益の計上を繰り延べる等の措置を講じる。この場合、源泉徴収等を行わないこととする。
(ロ) 100%グループ内の内国法人からの受取配当について益金不算入制度を適用する場合には、負債利子控除を適用しないこととする。
(ハ) 100%グループ内の内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する等の場合には、その譲渡損益を計上しないこととする。
(ニ) いわゆる無対価組織再編成について、その処理の方法等を明確化する。
ニ 中小企業向け特例措置の大法人の100%子法人に対する適用
資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人に係る次の制度については、資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上の法人又は相互会社等の100%子法人には適用しないこととする。
(イ) 軽減税率
(ロ) 特定同族会社の特別税率の不適用
(ハ) 貸倒引当金の法定繰入率
(ニ) 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
(ホ) 欠損金の繰戻しによる還付制度
ホ 連結納税制度
(イ) 連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度の適用対象外となる連結子法人のその開始又は加入前に生じた欠損金額を、その個別所得金額を限度として、連結納税制度の下での繰越控除の対象に追加する。
(ロ) 連結納税の承認申請書の提出期限について、その適用しようとする事業年度開始の日の3月前の日(現行6月前の日)とする。
(ハ) 事業年度の中途で連結親法人との間に完全支配関係が生じた場合の連結納税の承認の効力発生日の特例制度について、加入法人のその完全支配関係が生じた日(加入日)以後最初の月次決算日の翌日を効力発生日とすることができる制度に改組する。
(ニ) 連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度について、その開始又は加入後2月以内に連結グループから離脱する法人の有する資産を時価評価の対象から除外する。
ヘ その他
その他所要の措置を講ずる。
(6) 資本に関係する取引等に係る税制
イ みなし配当の際の譲渡損益
(イ) 100%グループ内の内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する等の場合には、その譲渡損益を計上しないこととする。
(ロ) 自己株式として取得されることを予定して取得した株式が自己株式として取得された際に生ずるみなし配当については、益金不算入制度(外国子会社配当益金不算入制度を含む。)を適用しないこととする。
(ハ) 抱合株式については、譲渡損益を計上しないこととする。
ロ 清算所得課税
清算所得課税を廃止し、通常の所得課税に移行する。その際、期限切れ欠損金の損金算入制度を整備する等の所要の措置を講じる。また、連結子法人の解散を原則として連結納税の承認の取消事由から除外する。
ハ その他
(イ) 適格合併等の場合における欠損金の制限措置等について、実態に応じて適用要件を見直しを行う。
(ロ) 分割型分割については、みなし事業年度を設けないこととする。
(ハ) 売買目的有価証券、未決済デリバティブ取引に係る契約等を適格分社型分割等により移転する場合の処理について整備を行う。
(ニ) 合併類似適格分割型分割制度を廃止する。
(ホ) 受取配当の益金不算入制度における負債利子控除額の計算の簡便法の基準年度を見直しを行う。
(ヘ) その他所要の措置を講じる。
(注)上記の改正は、(5)及び(6)の改正は、一定のものを除き、平成22年10月1日から適用する。
(7) 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、次の措置を講じる。
イ 非課税限度額(現行 500 万円)を次のように引き上げる。
(イ) 平成22年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者1,500万円
(ロ) 平成23年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者1,000万円
ロ 適用対象となる者を贈与を受けた年の合計所得金額が2,000 万円以下の者に限定する。
ハ 適用期限を平成23年12月31日(現行平成22年12月31日)までとする。
(注)上記の改正は、平成22年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用する。ただし、平成22年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者については、上記の改正前の制度と選択して適用できることとする。
(8) 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、相続人等による事業又は居住の継続への配慮という制度趣旨等を踏まえ、次の見直しを行う。
イ 相続人等が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等(現行200㎡まで50%減額)を適用対象から除外する。
ロ 一の宅地等について共同相続があった場合には、取得した者ごとに適用要件を判定する。
ハ 一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうちに特定居住用宅地等の要件に該当する部分とそれ以外の部分がある場合には、部分ごとに按分して軽減割合を計算する。
ニ 特定居住用宅地等は、主として居住の用に供されていた一の宅地等に限られることを明確化する。
(注)上記の改正は、平成22年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に係る相続税について適用する。
(9) 定期金に関する権利の相続税及び贈与税の評価について、現行の評価方法による評価額が実際の受取金額の現在価値と乖離していること等を踏まえ、次の見直しを行う。
イ 給付事由が発生している定期金に関する権利の評価額は、次に掲げる金額のうちいずれか多い金額とする。
(イ) 解約返戻金相当額
(ロ) 定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には、当該一時金相当額
(ハ) 予定利率等を基に算出した金額
ロ 給付事由が発生していない定期金に関する権利の評価額は、原則として、解約返戻金相当額とする。
(注1)上記イの改正は、平成22 年4月1日から平成23 年3月31 日までの間に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する定期金に関する権利(当該期間内に締結した契約(確定給付企業年金等を除く。)に係るものに限る。)及び平成23年4月1日以後の相続若しくは遺贈又は贈与により取得する定期金に関する権利に係る相続税又は贈与税について適用する。
(注2)上記ロの改正は、平成22 年4月1日以後の相続若しくは遺贈又は贈与により取得する定期金に関する権利に係る相続税又は贈与税について適用する。
(10) 消費税の仕入控除税額の調整措置に係る適用の適正化
消費税の課税の適正化の観点から、調整対象固定資産の取得に係る仕入控除税額が過大であった場合に減額する調整措置の対象となるよう、次の見直しを行う。
イ 事業者免税点制度の適用の見直し
次の期間(簡易課税制度の適用を受ける課税期間を除きます。)中に、調整対象固定資産を取得した場合には、当該取得があった課税期間を含む3年間は、引き続き事業者免税点制度を適用しないこととする。
(イ) 課税事業者を選択することにより、事業者免税点制度の適用を受けないこととした事業者の当該選択の強制適用期間(2年間)
(ロ) 資本金1,000 万円以上の新設法人につき、事業者免税点制度を適用しないこととされる設立当初の期間(2年間)
(注1)上記の改正は、(イ)に該当する場合には平成22年4月1日以後に課税事業者選択届出書を提出した事業者の同日以後開始する課税期間から適用し、(ロ)に該当する場合には同日以後設立された法人について適用する。
(注2)調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で100万円(税抜き)以上のものをいう。
ロ 簡易課税制度の適用の見直し
イにより、引き続き事業者免税点制度を適用しないこととされた課税期間については、簡易課税制度の適用を受けられないこととする。